大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)202号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について、判断する。

(原告主張の審決取消事由1について)

真空乾燥は常圧加熱に比べて加熱温度が低くてすむので、高温度で熱分解しやすい物質を乾燥するのに適することは、技術常識であり、引用例(成立について争いのない甲第二号証)には、担体をパラジウムカルボキシレートである酢酸パラジウムを含有する溶液に浸漬し、真空下に加熱して溶剤を蒸発させて酢酸パラジウム触媒を製造することが記載されているから、審決が「引用例においても成るべく低温で溶剤を蒸発させようとする配慮があるものと解される」とした点及び引用例においては「溶剤が水の場合にはその沸点の一〇〇℃以下、酢酸の場合にはその沸点の一一八℃以下において溶剤を蒸発させているものと推定される」とした点になんらの違法もない。

原告は、一般に物の乾燥処理において、特に除去すべき溶剤が多量に存在する場合には、乾燥装置をその溶剤の沸点以上に加熱しても、その内容物の温度は溶剤の沸点以上に上昇することはないから、乾燥時間を短縮するためにその溶剤の沸点以上の温度に乾燥装置を加熱して乾燥するのが常識であり、酢酸の沸点が一一八℃であるからといつて、引用例が溶剤として酢酸を使用していてもその加熱温度が一一八℃以下であると推定することはできない旨主張する。

しかしながら、本願発明の明細書(成立について争いのない甲第三号証の二)によれば、本願発明において担体触媒を「一二〇℃以下、殊に八〇℃以下の温度で乾燥」させるというのも、担体触媒を乾燥する装置に右の熱を加えるのではなく、担体触媒そのものに右の熱を加えることをいうものであることは明らかであり、審決も、また、引用例における加熱温度は、担体触媒に加えられる温度であり、それが一二〇℃以下であると推定しているのであるから「乾燥装置の加熱温度」を問題にして審決を非難する原告の主張は失当である。

原告は、本願発明が乾燥温度を一二〇℃以下に限定した点の臨界的な意義について、るる主張するが、引用例においても一二〇℃以下の温度で担体触媒を加熱乾燥させているとする審決の推定が是認される以上、加熱乾燥の点において本願発明の新規性を主張することはできず、乾燥温度の臨界的意義を述べることは無意味であるのみならず、本願発明の明細書にも乾燥温度が一二〇℃以下と一二〇℃を超える場合とでその効果に顕著な差異があることは何ら示されていない。

右のとおりであるから、パラジウムカルボキシレート含有溶液に浸漬した担体を乾燥させる場合の温度を一二〇℃以下、殊に八〇℃以下と限定することは、当業者が適宜なし得たものとした審決の認定判断に誤りはなく、この点を非難する原告の主張は理由がない。

(審決取消事由2について)

原告は、本願発明が溶剤の残分を二〇重量%以下と限定した臨界的意義を認めなかつた審決は違法である旨主張する。

しかし、本願発明において溶剤の残分を二〇重量%以下に限定したところに臨界的意義があることを認めるに足る証拠はない。本願発明の明細書も、溶剤の残分二〇%の点を挟んでは、残分四二%のとき酢酸ビニルの収率が一二g/l時、残分一八・五%のとき同四三g/l時であることを示しているにとどまり、溶剤の残分が二〇%以下と二〇%を超える境界点で収率に格別の差異があることを示してはいない。

なお、溶剤の残分を二〇%以下と限定したことは、溶剤の残分が零すなわち残分がないものまで含ませるものであることを意味するところ――事実、本願明細書の例4には残分零のものが記載されている――引用例においては、担持触媒は市場から入手し得るものと調製されたものとを同列に置いている(甲第二号証第二頁第三六行ないし第四三行)から、調製される担持触媒も溶剤たる酢酸の残分が零又はそれに近いものであると推定され、溶剤残分の点において本願発明は引用例と同一のものを包含することになる。

右のとおり、本願発明が溶剤の残分を二〇重量%以下に限定したことには格別臨界的意義を見出すことができないから、この限定は当業者が適宜することができたものであるとした審決の認定には誤りはない。

(審決取消事由3について)

原告は、審決は本願発明によつて製造される触媒の有効性について言及することなく、本願発明と引用例との間には格別な差異がないと認定したのは違法である旨主張する。

しかしながら、前述のとおり、本願発明と引用例のものとの間には構成上格別の差異が認められないのであるから、作用効果について論ずるまでもなく、本願発明は引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。原告の主張は理由がない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「パラジウム触媒の製法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九六七年一二月二日ドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四三年一一月二九日特許出願をしたところ、昭和四九年五月二九日拒絶査定を受けたので、同年九月三〇日これに対する審判を請求し、特許庁昭和四九年審判第七八三四号事件として審理されたが、昭和五三年七月一〇日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同月二九日原告に送達された(なお、出訴期間として三か月が附加された。)。

二 本願発明の要旨

担体を、パラジウムカルボキシレートを含有する溶液に浸漬し、一二〇℃以下殊に八〇℃以下の温度で乾燥し、そして溶剤を残分二〇重量%以下殊に六重量%以下まで蒸発させることを特徴とする、カルボン酸をガス相中でオレフインを用いてアルケニル化するのに適する、パラジウムカルボキシレートを含有する担体触媒を製造する方法。

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